アパート経営

アパート経営に必要な帳簿とは?おすすめ会計ソフトやポイントなど詳しく解説

2023年2月20日

アパート経営とは、所有するアパートの部屋を賃貸し、その入居者から家賃収入をもらう不動産事業です。そのため、アパート経営をしている人は自分で確定申告を行う必要があります。

確定申告を行う際に便利なのが帳簿です。事業の取引内容やお金の流れを記録した帳簿は、スムーズに申告が行えるので作成しておくことをおすすめします。また、帳簿を作成せずに経営を続けていると、税務調査が入ったときに関係書類が提出できず追加課税が発生してしまう可能性もあります。

「帳簿を作ったことがない」「記帳の仕方が分からない」「簿記の勉強が必要だ」など、不安や悩みを持つ方もいるかもしれません。しかし、近年ではクラウド会計ソフトが多く存在するので、知識がなくても帳簿を簡単に作れます。

そこで今回の記事では、帳簿の書き方について詳しく解説していきます。あわせておすすめ簡単家計ソフト3選も紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。

目次

アパート経営に必要な2つの簿記の違い

確定申告をする際には「青色申告」と「白色申告」の2つの方法があります。この2つの違いを覚えておくことで初めての確定申告でもスムーズに行えるでしょう。

青色申告をする場合
複式簿記といわれる書類を作成する必要があります。複式簿記とは、簿記におけるすべての簿記的取引を二面性に着眼して記録し、貸借平均の原理に基づいて組織的に記録・計算・整理する記帳のことです。

白色申告・青色申告をする場合
どちらも10万円の控除であれば簡易簿記で十分でしょう。簡易簿記(単式簿記)とは、簿記的取引を1つの科目に絞り、記録・集計する記帳法のことです。

「複式簿記」と「簡易簿記」では、提出する書類や受けられる控除額に違いがあります。それぞれ詳しく見ていきましょう。

複式簿記:青色申告で65万円控除

ある一定の基準を満たして青色申告をすると、最大65万円の控除が受けられます。しかし、65万円の控除を受ける際は、複式簿記を帳簿する必要があります。また、条件として事業的規模での不動産賃貸業の経営・不動産所得が必須になります。

不動産所得で青色申告特別控除を受ける場合、「5棟10室」といわれるものが認められなければなりません。「5棟10室」とは、独立した住宅5棟・アパートなどの集合住宅の貸室(10室以上)の物件を所有することです。

青色申告を利用する際、申請書を事前に提出しなければならないので注意しましょう。

青色申告承認申請書が必要

青色申告を利用するには、事前に「青色申告承認申請書」を税務署に提出しなければいけません。提出期限は決まっており、青色申告を受ける年の3月15日までに届けることが決まりとなっています。

1日でも提出が遅れれば、その年の青色申告は利用できません。青色申告を利用する際は、提出期限を必ず守るようにしましょう。

また、1月1日〜1月15日に新しく不動産賃貸業を開始した場合、申請期限は3月15日までですが、1月16日以降の開業の場合、開業後2ヵ月以内に申請するように決まっています。忘れないように「青色申告承認申請書」も一緒に提出すると良いでしょう。

簡易簿記:白色申告もしくは青色申告で10万円控除

青色申告の申請を行わなかった場合は、白色申告をすることになります。白色申告とは、記載が簡単な「簡易簿記」のことです。

簡易簿記は複式簿記と違い記帳の種類が少なく、項目・金額の記録を行うだけのため、知識がない人でも簡単に帳簿ができます。また、青色申告でも控除額が10万円でいいのであれば、複式簿記ではなく簡易簿記で大丈夫です。

複式簿記に必要な帳簿とは?

複式簿記では必ず作成すべき「主要簿」、主要簿を補助する「補助簿」の2つがあります。

主要簿は以下の内容から構成されます。

  • 仕訳帳
  • 総勘定元帳

一方、補助簿は以下の内容から構成されています。

  • 現金出納帳
  • 売掛帳・買掛帳
  • 経費帳
  • 固定資産台帳
  • 債権債務等記入帳

補助簿のなかで、債権債務等記入帳以外の帳簿は「簡易帳簿」ともいわれており、おこづかい帳のような簡易な帳簿を指します。ここからは、複式簿記に必要な帳簿について詳しく説明していきます。

主要簿:仕訳帳

仕訳帳とは、日々行われるすべての取引を、日付順に記録しておく帳簿のことです。仕訳日記帳ともいわれています。仕訳帳は、毎日の取引を発生順に「借方」「貸方」に分けたうえで、記入していきます。

借方は資産が増えたり費用が発生したりするときに記載し、貸方は負債や純資産が増えたり収益が発生したりするときに記載します。例えば、家賃収入が100万円として銀行口座に入金された場合、記載例は以下の通りです。

借方 貸方
普通預金 不動産所得
100万円 100万円

主要簿:総勘定元帳

総勘定元帳は、仕訳帳から転記する形で、すべての取引を勘定科目ごとに分類して記帳するものです。仕訳帳と違い、勘定科目ごとに整理するので残高を把握しやすくなります。

勘定科目とは、取引の内容を分かりやすく分類するために使うグループの名前です。仕訳帳の日付や勘定科目、金額や摘要などをすべて転記します。転記する際は借方と貸方を書き間違えるなどのミスがないように注意しましょう。この際、仕訳帳と勘定元帳とセットで記入すると、記入漏れを防ぐことができるのでおすすめです。

補助簿:現金出納帳

現金出納帳は、金銭出納帳(きんせんすいとうちょう)ともいいます。現金出納帳は、以下の現金の動きを記録した帳簿です。

  • 取引年月日
  • 科目
  • 摘要(詳細)
  • 収入額
  • 支出額
  • 差引残高

現金での取引発生順に記載することがポイントで、入金・出金があるたびに記録・現残高を可視化して確認することができます。また、手元の現金と帳簿の金額を照らし合わせて確認できるので、お金がないといったことも防止できます。

補助簿:売掛帳・買掛帳

売掛帳・買掛帳とは、売上先や仕入先ごとの掛け取引の発生、代金の回収、支払いを記入していく帳簿のことです。後から発生する予定の売上は売掛帳に記載します。また、「ツケ」で商品を購入した場合は買掛帳に記載します。

売掛帳・買掛帳を使用することで、取引先に対する未回収・未払いの残高を把握することができます。実際に入金や購入をしたら、売掛帳・買掛帳から差し引きましょう。

補助簿:経費帳

経費帳は、仕入れを含まない必要経費だけを、日付順にまとめたものです。

  • 水道光熱費
  • 通信費
  • 修繕費
  • 消耗品費
  • 福利厚生費

上記のようにたくさんの科目があります。例えば、コピー用紙や文房具は消耗品費、店舗の修理は修繕費などのような科目です。

補助簿:固定資産台帳

固定資産となる資産を購入した際に、取得時の状況や減価償却を記録しておく帳簿のことです。

減価償却とは、固定資産の購入費用を耐用年数に応じて分割して費用計上する会計処理のことです。固定資産とは、10万円以上の建物や備品など、事業のために1年以上使う資産のことを指します。

固定資産台帳には、資産内容や耐用年数などを詳しく記載する必要があります。

補助簿:債権債務等記入帳

65万円の控除を受けるには、先ほどの5つの帳簿のほかに「債権債務等記入帳」が必要になります。債権債務等記入帳を作成しない場合、10万円の青色申告特別控除しか受けることができないので気を付けましょう。

債権債務等記入帳には以下のものがあります。

  • 現金出納帳
  • 受取手形記入帳
  • 支払手形記入帳
  • 特定取引仕訳帳
  • 特定勘定元帳

このすべての科目を帳簿し、作成しなければなりません。

アパート経営で帳簿を付けるポイント

アパート経営で帳簿を付けると複雑な流れを可視化することができるだけでなく、金融機関からの信頼度も増します。ここで帳簿をつける際のポイントについて紹介します。

詳細はレシートと共に記しておく

交通費や備品代、消耗品費などの経費を計上するにはレシートのみでは不十分です。一般的に経費はアパート経営と関わるものでないと計上することができません。

レシートだけではアパート経営での使用なのか、私用目的での使用なのかわからなくなってしまう可能性があります。

レシートを保存する際には、いつ、どこで、なにを、いくら使ったのかなどを、詳しく明確にした上で保存するようにしましょう。

帳簿は一定期間保管する

青色申告・白色申告者は帳簿や書類を一定期間保管する必要があります。帳簿を付ける根拠となった書類は5年間、作成した帳簿の中の「法廷帳簿」は7年間です。1年間の確定申告が終わったからといって、安易に処分しないようにしましょう。

また帳簿や書類は紙で保存するのが一般的でしたが、5〜7年間もの書類の保管は場所を取るうえ、収納した場所がわからなくなってしまうこともあります。そのため、近年ではペーパーレス化が推奨されています。

さらに、2024年1月1日以降は原則電子データで保存することが義務付けられたので、今のうちから電子データで保存する習慣をつけておくこともおすすめです。

電子データを保存する場合の注意点

保存が必要な帳簿や書類は、紙ではなく電子データとして保存することを「電子帳簿等保存制度」と言います。保管スペースが不要となり、業務のデジタル化による生産性の向上や、テレワークの推進などにも繋がります。

また、請求書や領収書を電子データでやりとりした場合、プリントアウトせずに電子データのまま、保存することが必要とされています。そのため、パソコン・モニター・プリンターなどを用意して、要請があればすぐにデータを確認・提出できるようにしておきましょう。

大家さんにおすすめ!簡単会計ソフト3選

アパート経営をしているのであれば、65万円受けられる青色申告が一般的といえます。そのため、複式簿記の導入がおすすめです。複式簿記はいくつかの帳簿があり、記入するにはとても複雑です。簿記の知識がないと仕訳の段階でつまずいてしまうリスクもあります。

また、パソコンのエクセルでも管理することはできますが、エクセルの知識がないと作成すること自体が難しく、またトラブル時のサポートもないため問題が起きた際には大変です。

そこでおすすめなのがクラウド会計ソフトです。クラウド会計ソフトを利用することで、手間がかからない上、簿記の知識がない初心者でも簡単に帳簿作成をすることができます。

充実したサポートサービスもついているので初心者でも安心です。クラウド会計ソフトの中には無料でお試しする期間があるものもあるので、無料期間を活かして自分にあったソフトを選ぶことができます。

ここでは、大家さんにおすすめの簡単会計ソフトを3つ紹介します。

1. やよいの青色申告オンライン

引用元:やよい青色申告オンライン公式HP

2人に1人が「やよい」の会計ソフトを使っているといわれるほど、人気がある「やよいの青色申告オンライン」。

やよいの会計ソフトは、クレジットカードなどの取引データや領収書のスキャンデータ、スマホアプリで撮影したデータをAIが自動で仕訳してくれる機能があります。また、日付や金額を入力するだけで青色申告に必要な複式簿記帳簿を自動で作成する機能もあります。

e-taxによる電子申告にも対応しており、作成した書類を税務署に行かず確定申告ができる機能もあるのでとても便利です。しかし、このソフトは青色申告に特化しているため、白色申告をする場合は「やよいの白色申告オンライン」との契約を行いましょう。

【料金プラン】

プラン名 1年間の金額(税抜) 特徴
セルフプラン 8,800円 ・基本的なプラン
ベーシックプラン 13,800円 ・電話やメールなどで操作について質問できる
トータルプラン 24,000円 ・電話やメールなどで操作について質問ができる

・仕訳や経理業務、確定申告の業務相談ができる

2. マネーフォワードクラウド

引用元:MoneyForwardクラウド公式HP

「マネーフォワード」という資産アプリで有名な「マネーフォワードクラウド」は、株式会社マネーフォワードが提供するクラウドサービスです。

事務や管理部門のさまざまなデータを連携し、業務を自動化してくれます。また経理や人事労務の手間がかかる作業を効率化してくれます。

【個人向け料金プラン】

プラン名 1年間の金額(税抜) 1年間の金額を月額にした金額(税抜)
パーソナルミニ 9,600円 800円
パーソナル 11,760円 980円
パーソナルプラス 35,760円 2,980円

3. freee(フリー)

引用元:クラウド会計ソフトfreee会計公式HP

Googleから独立した佐々木大輔氏が創立した「freee」は、次世代型のクラウド会計ソフトです。300人以下の中小企業において、導入シェアNo.1の実績があります。

データ取込や仕訳を自動化し、経理業務全体の負担が減るため、効率化が図れます。また経理以外の人でも、経理状況をリアルタイムで確認することができる特徴があります。

【個人事業者向け料金プラン】

プラン名 1年間の金額(税抜) 1年間の金額を月額にした金額(税抜) 特徴
スターター 11,760円 980円 必要最低限の機能で確定申告ができる
スタンダード 23,760円 1,980円 経理の効率化から確定申告までを一括で行える
プレミアム 39,800円 3,316円 確定申告に関することについてトータルサポートが受けられる

知っておくと便利!アパート経営でお得な制度

アパートの経営において知っておくと便利な制度がいくつかあります。知らずに経営していると、実は損していることもあるかもしれません。そこで知っておくと便利なアパート経営でお得な4つの制度を紹介します。

1. 青色申告特別控除

青色申告特別控除とは、所得から最大65万円が控除される制度です。そのため、大きな節税効果が期待できます。ただし、青色申告特別控除を受けるためには条件があります。

  • 複式簿記での帳簿作成
  • 貸借対照表
  • 損益計算書

上記の資料を毎年3月15日までに作成し提出、確定申告を受けなければ青色申告特別控除を受けることはできません。また、書類に不備がなくても期限を越えて提出した場合は、控除を受けることができないので注意しましょう。

2. 青色事業の専従者

専従者とは、青色申告で確定申告をする個人事業主と生計を一緒にしている配偶者や15歳以上の親族などの家族従業員のことを言います。青色申告で確定申告をしている事業者は、家族を青色事業の専従者として、給与を全額経費に計上することが可能です。

しかし、事業の規模に対して給与があまりにも大きすぎると、税務署から注意を受けることがあります。

  • 事前に「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に提出する
  • 配偶者控除は使えない

上記のことに気を付けた上でこちらの制度を利用して節税しましょう。

3. 純損失の繰越と繰戻

純損失の繰越と繰戻を利用することで節税することができる可能性もあります。

たとえば、アパート経営で赤字になってしまったとします。翌3年間以内に黒字になった場合、利益の相殺が可能になります。つまり、今年200万円の赤字が出てしまった場合、翌3年以内に200万円の利益を出せばプラスマイナスがゼロになるため、利益がないことになり、支払う税金が抑えられるのです。

また、前年に青色申告を行っていた場合、前年の所得から赤字分を差し引き、前年所得税から還付してもらうことも可能です。

4. 30万円未満の物品は全額経費に計上できる

通常10万円以上の建物や備品などの経費は、減価償却に応じた税金を払わなくてはなりません。青色申告には「少額減価償却資産の特例」があり、取得価額30万円未満のものであれば全額その年の経費として計上し、処理することができます。

ただし、計上するには条件があり、その年の合計で300万円未満でないといけません。

また、この特例は、2年ごとに適用期限が改正されており、現時点で2024年(令和6年)3月31日まで延長されています。利益額を減らし、大きな節税効果が期待できるので取り入れてみるのも良いでしょう。

2020年に改正された青色申告特別控除とは?

もともと青色申告特別控除は、65万円または10万円の2種類しかありませんでした。しかし、2018年度に大きな税制改正があり、青色申告特別控除が65万円、55万円、10万円と3種類に増えました。ただし、一定の条件を満たした人のみが65万円控除を受けられます。

55万円の控除額についてや65万円の控除を受ける方法について詳しく説明します。

控除額が55万円に引き下げ

2020年以降の個人事業者の青色申告では、65万円から55万円に引き下げられ、55万円または10万円が基本の控除額になりました。10万円の控除を受ける要件は、今までどおり簡易簿記だけで大丈夫です。

しかし65万円控除を受ける要件であった「複式簿記」「貸借対照表」「損益計算書」を3月15日までに提出しても、これからは控除額が55万円に引き下げられてしまいます。

65万円の控除を受ける方法

65万円の控除を受けるには、55万円の控除を受ける要件と共に、電子帳簿保存またはe-taxによる申告(電子申告)が必要です。

e-taxによる申告(電子申告)は、マイナンバーカードの取得が必須になります。また、マイナンバーカードの読み取りに対応したICカードリーダーやスマートフォンも必要になります。早めに準備しておくと安心です。

電子帳簿保存は、帳簿の備え付けや書類保存を開始する3ヵ月前までに税務署に申請書を提出し税務署長の承認が必要でした。しかし、2021年(令和3年)の税制改正で、2022年(令和4年)1月1日以降税務署長の事前承認制度が廃止されました。

取引データに関するデータの保存は、紙ベースではなく電子データでの保存が可能になりました。しかし、税務署に電子帳簿保存の申請が必要になっており、開示請求があった際にはパソコンやプリンターも必要になります。

65万円の控除を受けるためにもマイナンバーカードやカードリーダー、パソコンやプリンターなどの設備はもちろん、税務署への申請なども忘れないように行っておくことをおすすめします。

まとめ

アパート経営をしている場合は、青色申告を受ける方がおすすめです。複式簿記で大変ですが、最大65万円の控除を受けられるというメリットは他にはありません。

また、現在では便利なクラウド会計ソフトがたくさんあります。簿記の知識がない人でも、手間がかからず、簡単に帳簿を作成できます。こちらを参考にクラウド会計ソフトを取り入れて、複式簿記に挑戦してみてはいかがでしょうか。