アパート経営を法人化する方法とは?メリットや登録手順など徹底解説
2023年2月24日アパートなどの賃貸物件のオーナーになると必ず家賃収入が発生します。その家賃収入には、必ず収入額に応じた納税の義務が発生するものです。収入は多い方が良いかもしれませんが、収入が多ければその分納税額が増えてしまいます。少しでも節税したい方におすすめなのが、アパート経営を法人化することです。
しかし、「法人化をするには何をしたらいいのか」「どのタイミングですべきなのか」などわからない方も多いかもしれません。
この記事ではアパート経営を法人化する際の手続きや疑問、法人化するメリットなどを徹底解説します。アパートを法人化しようか迷っていたという方は、最後まで読んで今後のアパート経営の参考にしてください。
目次
アパート経営を法人化する方法とは?
これまで個人でやってきたアパート経営をいきなり法人化すると考えると難しく感じる方もいるかもしれません。また、そもそも法人化するためにはどのような方法があるのでしょうか。
- 不動産を所有する会社を設立する
- 不動産の管理委託会社を設立する
上記の二通りがあるので詳しく解説していきます。こちらを参考にご自身に適している法人がどのような形なのかを検討してみてください。
不動産を所有する会社を設立する
アパート経営を法人化することを考えたとき、多くの方がまず思い浮かべるのはアパートを法人所有にしてしまうことではないでしょうか。法人化しなくても個人で節税すれば問題ないと考える方もいるかもしれません。しかし、個人所有の場合はオーナーが亡くなった際に、相続税が発生し、納税義務が生じてしまいます。
そこでおすすめなのが、不動産を所有する会社を設立することです。
不動産を所有する会社を設立し、家族を役員にすることで給与所得控除が受け取れるようになったり、節税が期待できたりします。また、相続時にも相続税が課されないなどメリットが多くあります。
不動産の管理委託会社を設立する
もう1つの方法として、管理委託会社を設立するというものもあります。不動産を所有する会社の設立との違いは、管理委託会社はアパートの所有権を持たないという点です。
たとえ管理委託会社を設立したとしても、アパートの所有権は大家さんにあるため、アパートの管理費用のみを管理会社に支払うことになります。その結果、大家さんの所得は減り、法人は売り上げを計上できるので所得金額が増えます。
会社の設立よりもメリットが少なく感じるかもしれませんが、アパート経営とは別の事業展開など法人としての可能性を広げることができるでしょう。
アパート経営を法人化する目安は?
アパート経営を法人化する時期は適切に判断しなければなりません。法人化するタイミングの目安としては以下の条件に該当する場合です。
- 収入が1,000万円を超えている
- 規模が事業に適している
収入が十分になかったり、近いうちに相続が発生する可能性があったりする場合などはしっかりと見極める必要があります。それぞれの条件について詳しく見ていきましょう。
収入が1,000万円を超えている
一般的に収入が1,000万円を超えたら法人化する方が多くいます。これは収入1,000万円を超えたあたりから納税額が高くなるため、税金を減らす方法として法人化する人が多くいるからです。
しかし、法人の設立と維持には社会保険や雇用保険、法人税や各種顧問料などさまざまな費用がかかるので、収入と経費のバランスは確認する必要があります。
経費よりも収入が多い場合は、アパート経営の法人化を検討してみるのも良いでしょう。
規模が事業に適している
アパート経営の法人化を考えるもう1つの目安がアパート経営の規模です。これは税法ではアパート経営が「不動産貸付業」に該当するからです。
事業の規模に関しては具体的な数値が決まっているわけではないので判断することは難しいかもしれません。しかし「貸している不動産の数」と「収益」を基準に、事業と呼べるかどうかで判断すると良いでしょう。おおよそ以下の基準に該当するのであれば、事業規模とみなされます。
- マンションやアパートなどで、貸与できる独立した部屋が10室以上ある
- 独立した一軒屋などを5棟以上所持している
上記に該当する規模のアパート経営を行っている場合は、法人化を検討してみるのも良いかもしれません。
アパート経営を法人化するメリット
アパート経営を法人化するメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。大きく分けて以下のメリットが期待できます。
- 節税の効果がある
- 相続税の対策になる
それぞれのメリットについて詳しく見ていきましょう。
1. 節税の効果がある
アパート経営を法人化する大きなメリットとして、節税効果が挙げられます。節税といってもさまざまな方法で税金対策を行うことができます。アパート経営を法人化することで期待できる節税効果に関して詳しく見ていきましょう。
所得に関する税負担が軽減できる
アパート経営を法人化した際に行える節税方法の1つが、所得に関する税の軽減です。個人でアパート経営を行っていると収入額に応じて所得税率が変わってきます。特に年収900万円を超えるか超えないかで税率が10%も変わってしまいます。
しかし、法人化した際にかかる法人税だと年収800万円を境に税率が決まっています。そのため所得が増えても税率は変わらず、所得が増えるほど節税が可能です。ただし、法人の場合は行わなければならない申告も多くあるためプロの税理士を顧問に迎えるなど準備を行うと良いでしょう。
家族を社員にすることで節税に繋がる
法人は組織である以上、それを構成する社員が必要になります。その社員を家族に割り振ることで節税することも可能です。
たとえば夫婦でアパート経営を行っている場合、夫を法人の代表に、妻を社員にします。夫は社員である妻に給与を支払う必要がありますが、この場合法人で得た収入を代表である夫と妻の2人で分配することになります。
収入を2人で分け合うことで税率が下がり、結果的に納税額を少なくすることができます。他の家族を社員にすると、さらに納税額を抑えることも可能になるでしょう。
現在のアパート経営を法人化し家族を社員にすることで、個人にかかる税負担が軽減でき可処分所得の増加を見込むことができます。
計上できる経費が増える
アパート経営を法人化することで計上できる経費が増えます。例えば、以下のような経費は計上することができます。
- 役員報酬
- 役員の退職金
- 法人が加入している保険
家族などを役員にした場合、その家族に支払う報酬も法人にとっては損金となるので、経費として計上可能です。また、役員や社員が退職した際に支払う退職金や生命保険なども、全額損金として経費計上することができます。
このようにアパート経営を法人化することで計上できる経費の幅が広がるため、賢く経費計上すれば大きな節税効果が期待できます。
赤字になっても繰り越せる
アパート経営を法人化することで行える節税には赤字繰り越しという方法もあります。個人で赤字を計上した場合も、申告することで3年間はその赤字を繰り越すことが可能ですが、法人となると最大10年繰り越すことが可能となります。
アパート経営では周辺の環境の変化によって利益が増減したり、突発的な修繕によって出費がかさんだりすることは少なくありません。そのため、前年度の赤字を繰り越すことで、赤字が利益を相殺し、課税額を減らすことができます。
「赤字」と聞くと良くないイメージがありますが、法人の場合は赤字であるために行える節税もあるので法人化するメリットともいえるでしょう。
2. 相続税の対策になる
アパート経営を法人化する大きなメリットの2つ目が相続税対策です。故人から財産を相続した際に発生する相続税ですが、アパート経営の場合は法人化することでその対策をとることができます。法人化することで行える相続税対策について詳しく見ていきましょう。
財産の分散と相続税対策
個人でアパートを経営し収入を増やしていくと、オーナーが亡くなった際に多額の相続税を課されます。しかし、アパート経営を法人化し家族をその法人の役員にすることで、この相続税を抑えることができます。
法人として役員に役員報酬を支払うことで、アパート経営で得た収入を家族で分散できます。分散することで相続する金額は減り、相続税を抑えることができるのです。
相続手続きの負担を減らせる
故人の財産を相続する際は、故人の財産をリスト化し相続人で話し合い、分配を決める必要があります。遺言書で割合などが指定してある場合もありますが、それがなければ相続人同士で決定しなければなりません。
場合によってはトラブルが発生することもあり、弁護士や司法書士などを挟んで話し合いを行わなければいけない事態に発展するかもしれません。家族の仲が悪くなることも考えられます。
しかし、法人化して家族でアパート経営の収入を分配しておけば、そのようなトラブルは軽減可能です。手間もかからず争いの種になることもないので、その後のアパート経営も穏やかに継続できるでしょう。
アパート経営を法人化するデメリット
アパート経営を法人化する際のメリットはたくさんありますが、以下のようなデメリットもあります。
- 売却時の税率が上がってしまう
- 規模が小さいとコストの方が高くなってしまう
アパート経営を法人化した際のデメリットについて見ていきましょう。
売却時の税率が上がってしまう
アパート経営を法人化する際に考えられるデメリットの1つとして、アパートを売却した際にかかる税金が上がってしまうことです。
アパートを売却した際の税率はアパートの所有年数によって異なります。たとえば、アパートを5年以上保有してから売却すると個人の場合は所得税と住民税を合わせて20%ですが、法人の場合は合わせて35%です。
5年以上アパートを所有している場合は、個人で経営している方が税率を抑えることができます。
規模が小さいとコストの方が高くなってしまう
アパート経営を法人化することのデメリットの2つ目は、小規模ではコストがかかることです。たとえば、アパートを個人で経営していて、所有物件が10〜20部屋ある場合は、メリットが大きくなるでしょう。しかし、所有物件が数部屋の場合では、法人を設立しても維持費の方が大きくなり、デメリットになってしまう可能性があります。
このように小規模のアパート経営であれば、法人化する旨味はありません。収入や所有物件の数を基準に法人化するかどうかを検討することで、コスト倒れというデメリットを回避することができるでしょう。
アパート経営を法人化する際の注意点
アパート経営を法人化する際に、忘れてはいけない注意点がいくつかあります。
- 会社設立には費用がかかる
- 法人を維持するランニングコストもかかる
- ローン残債があるなら相談する必要がある
- 副業として法人化するなら要注意
これらの注意点について詳しく見ていきましょう。
会社設立には費用がかかる
会社を法人化するための種類はいくつかありますが、それぞれ費用がかかります。たとえば株式会社を設立する際にかかる費用を見てみましょう。
【法定費用としてかかる費用】
- 公証人役場でかかる費用:定款印紙40,000円+定款認証手数料52,000円
- 法務局でかかる費用:登録免許税150,000円(同時に代表者の印鑑証明や設立後の謄本取得費用などが必要になる)
さらに、資本金も必要となります。資本金は1円からでも可能ですが、借り入れなどもあるため、中小企業の場合は100万円以上を資本金としている会社が多いです。
法人を維持するランニングコストもかかる
法人は維持するためにランニングコストもかかります。主にかかるランニングコストは以下の通りです。
- オフィスの賃料、光熱費
- 社員の給料
- 弁護士や税理士などの顧問料
経費削減で賃金アップをしなかったり、節電を行ったりしている法人もありますが、働きづらい環境に繋がることもあるので、ランニングコストはバランスを見ながら見極める必要があります。
ローン残債があるなら相談する必要がある
アパートを購入する際に、ほとんどの方はローンを組んでいるのではないでしょうか。そのローンを完済していれば問題ありませんが、現在もローンを返済している場合は気を付けなければならないことがあります。
法人化すると物件が個人から会社の所有物になるため、その物件の名義を個人から法人に変更しなければなりません。金融機関によっては、手続きに時間がかかってしまうことも考えられます。そのような場合は、借り換えなども検討しながら進めていくと安心です。
さらに場合によっては個人から法人へ売却を行わなければならない場合もあり、税金や手数料が追加で発生することもあります。
副業として法人化するなら要注意
本業で副業が許可されている場合は問題ありませんが、会社によっては副業が禁止されていることもあります。例えば、公務員などの副業は原則禁止です。
会社が副業を禁止にしていることを知らずに副業であるアパート経営を法人化してしまうと、本業の就業規則に違反してしまう可能性もあります。アパート経営を法人化する前に本業の規則を確認するようにしましょう。
アパート経営を法人化する手順
法人化するためには決めるべきことや作成すべき書類など踏まなければならない手順がいくつかあります。アパート経営を法人化する手順を詳しく見ていきましょう。
1. 所有方式と法人の種類を決める
アパート経営を法人化する場合、まず所有方式と法人の種類を決める必要があります。
所有方式には大きく分けて以下のものがあります。
種類 | 内容 |
建物のみ所有方式 | 土地と建物のうち建物のみを法人で所有 |
土地建物所有方式 | 土地も建物も両方法人で所有 |
また法人には主に以下の種類があります。
種類 | 特徴 | 最低資本金 | 最低株主 | 経営者の責任範囲 | 登記手数料 |
株式会社 | ・多くの企業が取っている、従来通りの法人化の方法
・事業の規模は問わない ・社会的な信頼度がもっとも高い |
1円 | 1名 | 有限責任 | 20~25万円程度 |
合同会社 | ・株式会社より設立費用が少ない
・手続きや組織が簡易 ・小規模経営なら低コストで済む |
1円 | 1名 | 有限責任 | 10万円前後 |
合資会社
合名会社 |
・個人事業主とほぼ同じ
・同族会社がグループ傘下の会社をつくるときなどに 使われることが多い |
1円 | 合名会社は1名
合資会社は2名 |
無限責任 | 10万円前後 |
2. 定款を作成する
法人を設立する上で、会社の基本的な情報を記した定款を作成する必要があります。定款に定めなければならない最低限の内容は以下の通りです。
- 商号
- 法人の本店所在地
- 代表者の氏名・住所
- 事業目的
- 資本金
- 役員の数
上記の他に物品の現物出資があった場合はその価額の記載が必要になります。記載内容の詳細について法人ごとに異なるので、何を記載すべきか自分で判断がつかない場合は、司法書士や行政書士などの専門家に相談すると良いでしょう。
これまでは紙で作成し、印紙代を支払い提出するという形式が一般的でした。文書の電子化が進む昨今、専門ソフトなどで作成しデータで提出するという方法も増えています。電子データでの提出であれば印紙代の節約にもなるため、費用を削減したいという方には電子データでの提出がおすすめです。
3. 登記書類を作成する
法人化する場合、定款に加え登記書類を作成する必要があります。株式会社として法人を設立する場合に必要な書類は以下の通りです。
- 設立登記申請書
- 登録免許税納付用台紙
- 発起人決定書
- 代表取締役や取締役、監査役など役員の就任承諾書
- 資本金の払込証明書
- 印鑑届書
それぞれの書類の作成方法や提出方法は法務局に問い合わせると相談に乗ってもらえます。またこれらの書類作成にはさまざまな知識が必要で、全てを1人で作成することは難しいかもしれません。そのような場合は、法人登記を主な業務とする司法書士コンサルタントに相談してみることもおすすめです。
4. 法務局で設立登記を行う
法人設立に必要な書類が準備できたら法務局で設立登記を行います。法人の設立登記は、法務局で直接手続きをする必要はなく、書類の郵送やオンラインによる手続きも可能です。
手続きをした日が会社の設立日になるので、設立したい日に手続きを行いましょう。ただし、書類を郵送する場合、書類が法務局に届いた日が設立日になります。こだわらない場合は問題ありませんが、希望した日に登記を行いたい場合は日程の調整を行う必要があるでしょう。
一般的に書類を提出し内容に不備が無ければ通常7〜10日ほどで登記が完了するといわれています。また、書類に不備がない場合は連絡が来ないので、7〜10日たっても何も連絡がなければ登記完了です。不備があった場合は法務局から連絡が来るので、連絡内容にしたがって手続きをするようにしましょう。
5. 税務署などに開業届を出す
法務局での法人設立登記が完了しても、行わなければならないことがあります。それは税務署などへの開業届の提出です。開業から2か月以内に以下の書類を税務署に提出しましょう。
- 登記簿謄本定款の写し
- 登記事項証明書
- 青色申告の承認申請書
- 給与支払事務所等の開設届出書
- 棚卸資産の評価方法の届出書
- 有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出方法の届出書
- 減価償却資産の償却方法の届出書
会社の種類によっては必要書類が異なるので、わからない場合は税務署に確認すると安心です。
アパート経営の節税方法
アパート経営で節税したい場合は、法人化以外にも方法があります。
- iDeCo(個人型確定拠出年金)に加入する
- 小規模企業共済に加入する
- 修繕費を経費として計上する
それぞれどのような方法なのか詳しく見ていきましょう。
1. iDeCo(個人型確定拠出年金)に加入する
法人化以外での節税方法の1つとして「個人型確定拠出年金(iDeCo)」への加入が挙げられます。iDeCoは毎月一定額を積み立てて運用し、それを60歳以降に年金のように受け取るか、一括で受け取ることができる制度です。
iDeCoの毎月の積立金や運用益、受け取った際の金額は全額所得控除の対象となります。そのため、将来の備えを貯蓄しながら節税対策が行えるということになります。
ただし、積立をはじめると原則60歳になるまで受け取れないうえ、途中解約の条件はハードルが高いので加入する際は慎重に検討するようにしましょう。
2. 小規模企業共済に加入する
2つ目が小規模企業共済への加入です。小規模企業共済は従業員数が20名以下または5名以下の会社の経営者や役員が加入できる共済制度になります。
毎月一定額の掛金を積み立てる小規模企業共済は、掛金を全額経費として計上することができます。また、毎月の掛金も5,000〜70,000円までを500円単位で自由に選択することも可能です。そのため、自分に合った掛金を自由に積み立てることができます。
積み立てた掛金はアパート経営が廃業したときや退職する際に受け取れます。
3. 修繕費を経費として計上する
3つ目は修繕費を経費として計上する方法です。
アパートを経営していると、大規模なものから小さな修繕まで毎年なにかしらの修繕が発生するのではないでしょうか。このとき発生する費用は、修繕費として経費に計上できる場合があります。例えば、以下の場合だと経費として計上することが可能です。
- 壁紙の張替
- 壊れたキッチンの修理
- 割れた窓ガラスの交換
- 外壁の塗装
ただしアパートの価値が上昇するような工事や耐用年数が増加する工事の費用は修繕費とは認められないので注意しましょう。
まとめ
アパート経営を行う上で法人化による節税というのは大変有意義であり魅力的でもあります。しかし、全てのアパートオーナーに法人化が向いているとはいえません。
法人化することで節税ができるようになることは大切ですが、収入に対して不要な出費を抑えながら税額を軽減していくかも経営していく上ではカギになります。
アパート経営の法人化を検討するのであれば、規模や収入などご自身の経営に適しているのかをまずは考えてみましょう。ぜひ今回の記事を参考にしてアパート経営の法人化を検討してみてください。