高齢者向け賃貸アパートの需要は?アパートを借りられない高齢者の救済となる?
2023年2月24日これからのアパート経営を考えた際に、高齢者向けの賃貸アパートを始めたら需要はあるのでしょうか。高齢者は、アパートを借りる際に、入居審査が通りにくいと言われています。
そのような中でも、少子高齢化は進んでいるため、今後は高齢者向け賃貸アパートへの需要は高まることが予想できるでしょう。
この記事では、需要が高まっているサービスつき高齢者向け住宅のメリットやデメリット、リスクの軽減方法、サービスつき高齢者向けアパートの4つの経営方法について解説していきます。
アパートを高齢者向けにするか悩んでいるという方はぜひ本記事を参考にしてみてください。
目次
今後のアパート経営には高齢者の入居が必須となる
現在、高齢者がアパートを借りる時に、入居審査が通りにくいといわれています。しかし今後、アパートの経営には高齢者の入居が必須です。
なぜなら、アパートの空室が増えているからです。ここでは、アパートの空室問題とその原因について解説します。
アパートの空室問題
アパートの空室はこれからも増加するでしょう。平成30年の総務省の住宅・土地統計調査によると、全国の空き家は、20年間で576万戸から849万戸と約1.5倍に増加し、空き家率は過去最高の13.6%になりました。
この調査は、日本の住宅とそこに居住する世帯の居住状況、世帯の保有する土地などの実態を把握し、その現状と推移を把握するものです。
空き家の種類別内訳を見ると、賃貸用の住宅の空きは51.0%で432万戸もありました。賃貸用の空き家は15年間で60万戸増加しています。
空き家が問題になっている一方で、高齢者のための設備がある住宅・断熱性能の高い窓・太陽光発電等の省エネ性能の高い住宅は、15年間で増加しました。このことから設備がある住宅への需要が高まっていることが分かります。
今後も、アパートの空室が増えていくことが予測できるでしょう。
空室問題の原因は?少子高齢化と物件の供給過多
全国の空き家率と賃貸用の空室率は増加しています。それでは、空き家率が増加する原因はあるのでしょうか。
それは少子高齢化と需要に対する物件供給の多さです。
少子高齢化
総務省統計局「人口推計(2021年10月1日現在)」によると、日本の総人口は、64万4千人減少しています。減少幅は、1950年以降過去最大です。日本人の人口の減少幅も、10年連続で拡大しています。このことから、人口の減少が速くなっていることが分かるでしょう。
人口ピラミッドを見ると、0歳〜64歳の人口は、前年に比べて減少し、その割合は過去最低でした。反対に、65歳以上の人口は、前年に比べて増加、割合は過去最高となりました。
また、年齢区分別人口の割合の推移(1950年〜2021年)を見ると、減少する15歳未満の割合が、65歳以上の割合を超えました。少子高齢化が著しく加速しています。日本の総人口は2010年以降減少期に入り、2030年以降、毎年100万人ずつ人口が減ると言われています。
高齢者の人口の割合は増加するため、ますます超少子高齢化社会となるでしょう。
物件の供給過多
今日の日本では、人口が減少しているのに対し、毎年新しい賃貸物件が建設されている状態です。
令和4年1月31日に国土交通省が公表した「新設住宅着工戸数」の推移によると、令和3年の新設住宅着工の総戸数は856,484戸で、前年比5.0%も増加しています。
人口減少により、住宅需要も低下しているにもかかわらず、新しい賃貸物件の建設は進められていることが分かります。
サービスつき高齢者向け住宅の需要が高まることが予想される
今後も増える高齢者向けのアパートは、空いている賃貸住宅を活用できると良いでしょう。
しかし、高齢者のなかには「日常生活のほとんどは自分でできるけど、一人暮らしが心配」という方もいます。そのような方向けに、サービスつき高齢者向け住宅があります。今後、高齢化が進む中で需要が高まるでしょう。
ここからの記事内容は、以下の通りです。
- サービスつき高齢者向け住宅の特徴
- 一般型と介護型
1つずつ解説していきます。
サービスつき高齢者向け住宅の特徴は?
サービスつき高齢者向け住宅とは、高齢者単身・夫婦世帯が居住でき、高齢者向けのサービスをセットにした賃貸住宅で「サ高住(さこうじゅう)」とも呼ばれています。
サービスつき高齢者向け賃貸と高齢者向け賃貸の比較は、以下の通りです。
サービスつき高齢者向け賃貸 | 高齢者向け賃貸 | |
特徴 | 介護を必要としない高齢者または、要介護者が生活支援を受けながら暮らせる施設。 | 介護を必要としない高齢者が安心して生活できるよう配慮されたバリアフリー対応の施設。 |
入居条件 | 原則60歳以上
主に自立~軽度の要介護 |
原則60歳以上
介護を必要としない方 |
費用 | 敷金:家賃の2~5ヶ月分
月額費用:10~30万円 ※施設により異なる |
敷金:家賃の2~3ヶ月分
月額費用:10~50万円 ※施設により異なる |
規模・設備 | ・バリアフリー
・個室(原則25㎡以上) ※条件を満たせば18㎡以上でも可能 ・各専用部分に、台所、水洗便所、収納設備、洗面設備、浴室を備える ※条件を満たせば、各戸に台所、収納設備または浴室を備えずとも可 |
・バリアフリー
・個室(原則25㎡以上) ※条件を満たせば18㎡以上でも可能 ・各専用部分に、台所、水洗便所、収納設備、洗面設備、浴室を備える ※条件を満たせば、各戸に台所、収納設備または浴室を備えずとも可 |
主なサービス | ・安否確認
・緊急対応 ・生活相談 ・生活支援(掃除や買い物代行など) |
・安否確認
・緊急対応 ・生活相談(提携している病院の紹介、介護サービス利用に関する相談など) |
契約方式 | 賃貸借契約 | 賃貸借契約 |
食事サービス | 施設によって食堂や宅配弁当(有料)または自炊など、自由に選べる | 必要になった場合には、サービスを提供する外部の事業者(有料)を利用 |
介護サービス | 必要になった場合には、サービスを提供する外部の事業者(有料)を利用 | 必要になった場合には、サービスを提供する外部の事業者(有料)を利用 |
ケアの専門家が日中は常駐し、サービスを提供しています。以下のいずれかに該当する者を常駐させなければなりません。
- 社会福祉法人、医療法人、指定居宅サービス事業所などの職員
- 医師
- 看護師
- 介護福祉士
- 介護支援専門員
- 介護職員初任者研修課程修了者
- ヘルパー2級以上の資格を有する者
一般型と介護型に分けられる
サービスつき高齢者向け住宅は、大きく分けて2種類の仕組みがあります。それは一般型と介護型の2種類で、サービスの内容が異なります。一般型は、安否確認・生活相談がついたサービスつきです。必要な介護サービスがあれば、個別で契約する仕組みとなります。
介護型(特定施設)は、介護度別の定額で行われる介護サービスです。一般型のサービスのほかに、食事の提供・介護の提供・家事の供与・健康管理も含まれます。
老人福祉法に基づく有料老人ホームの要件の内容ですので、有料老人ホームもサービスつき高齢者向け住宅の1つです。入居には、初期費用と月額費用がかかります。一般型か介護型のいずれかで、費用が大きく異なるので注意してください。
サービスつき高齢者向け住宅のメリット3つ
これまでに、サービスつき高齢者向け住宅の特徴や仕組みを解説しました。高齢者にふさわしい設備と安心できる見守りサービスを整えるのが大切です。
ここからは、サービスつき高齢者向け住宅を経営する人に向けて3つのメリットを紹介します。
- 国からの補助金を活用できる
- 一般アパートと差別化しやすい
- 今後の需要の高まりが期待できる
国からの補助金を活用できる
補助金制度は、改修と新築の場合で異なります。改修の場合には、2つの補助金が利用できます。
1つ目は、国土交通省による住宅確保要配慮者専用賃貸住宅改修事業です。補助の対象工事は、共同居住用の改修・間取り変更やバリアフリー改修(外構部分のバリアフリー化含む)などがあります。
新たな住宅セーフティネット制度の枠組みのもと、補助率・限度額は改修工事費用の1/3(上限50万円/戸)を政府が補助しています。こちらは条件によって、別途上限に加算があるので注意が必要です。
2つ目は、地方公共団体による補助金です。東京都墨田区の場合、改修工事に対して、工事費用の合計額の2/3の額(条件によって上限額が異なる)が補助されます。
新築の場合は、国土交通省の「高齢者等居住安定化推進事業」の対象となり、建築費の最大1/10が補助金として援助を受けることができるのです。補助金額は、床面積に応じて定められています。
補助金制度以外にも、固定資産税や不動産取得税、所得税、法人税の減額といった優遇措置もあります。
一般アパートと差別化しやすい
一般的なアパートにはない、安否確認や生活相談のサービスを伝えていくことで、差別化することができます。
サービスつき高齢者向け住宅は、食事サービスや介護サービスを自分で選ぶことができるので、入居者のニーズに合わせたさまざまなサービスを用意することが大切です。
また、高齢者向けの賃貸物件は高齢者のニーズに応えられるだけではありません。高齢化した親が心配だけど頻繁に様子を見られないという、高齢者の家族からのニーズにも応えることが可能です。
今後の需要の高まりが期待できる
前述したように、少子高齢化により、高齢者が増加しています。そのため、一般的な賃貸住宅への入居ができない高齢者の増加が予想でき、需要は高まっていくでしょう。
老々介護という言葉のように、面倒を見てくれる子や孫の世代が近くにいなくなる場合も多くなりました。単身の場合、夫婦で暮らしている場合でも「何かあったらどうしよう」や「誰かに相談したい」といった悩みから逃れられないかもしれません。
このような問題を解消できるサービスつき高齢者向け住宅の需要が高まるのは確実です。
サービスつき高齢者向け住宅のデメリット3つ
サービスつき高齢者向け住宅を経営する大家さんにとっては、3つのデメリットが考えられます。
- 孤独死のリスクが高まる
- 家賃の滞納のリスクが高まる
- 設備投資の必要がある
いろいろと懸念するリスクがあるので、しっかりと把握して対応策を練るようにしましょう。
孤独死のリスクが高まる
まず大家さん側の視点に立って考えたデメリットとして、孤独死が挙げられます。
「東京都監察医務院で取り扱った自宅住居で亡くなった単身世帯の者の統計」によると、孤独死の年間件数は、2003年が4,849件でしたが、2020年には8,950件となりました。17年間で約1.88倍に増加しています。
孤独死は一人暮らしをしている高齢者に多く見られ、高齢化とともに年々増加しています。
孤独死によって、発見が遅れると内装のリフォームや特殊清掃が必要です。残置物を遺族が引き取らないときもあるため、その処理も含めると大家さんの経済的・心理的な負担が大きくなってしまいます。
孤独死を防ぐためには見守りサービスを活用していくと良いでしょう。見守りサービスについては、後述します。
家賃の滞納のリスクが高まる
多くの高齢者の主な収入源は年金です。
厚生労働省の「厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金保険(第1号)の受給者に係る老齢年金の平均年金月額は14万5,665円で、国民年金の老齢年金の平均年金月額は5万6,479円になっています。
前述したように、サービスつき高齢者向け住宅の家賃は10万円以上が相場です。貯蓄が限られており、年金を生活資金にしている場合、家賃を払えない可能性も高いです。
家賃の滞納があったときに対応するために、契約時に保証人を立ててもらうようにしましょう。
設備投資の必要がある
サービスつき高齢者向け住宅として登録するには、高齢者にふさわしい設備が必要です。
厚生労働省は、設備投資に関する3つの条件を公開しています。
- 各専用部分の床面積は、原則25㎡以上(居間・食堂・台所・住宅の部分は18㎡以上)
- 各専用部分に、台所、水洗便所、収納設備、洗面設備、浴室を備えたもの
- バリアフリー構造であること
参考:厚生労働省「サービス付き高齢者向け住宅について」
具体的にみると、段差のない床や廊下幅の確保、各場所に手すりの設置やエレベーターの設置などを行う必要があります。
補助金制度を利用できますが、あくまで一部資金の補助なので、初期投資を行うために資金力が必要です。
リスクの軽減のためには何ができる?
デメリットに対応するためには何を行えば良いのでしょうか。
ここではリスクを軽減するために、4つの対策を紹介します。
- 見守りサービスを活用する
- 孤独死損害補償保険に加入する
- 保証人を立てて契約してもらう
- 設備を高齢者向けにする
具体的な対策方法について見ていきましょう。
設備投資の必要がある
孤独死を防ぐためには、入居者の異常事態に気づくことが必要です。
サービスつき高齢者向け住宅の場合、ケアの専門家による安否確認も行われていますが、最近では見守りサービスも充実しています。見守りサービスは多様化しており、今ではさまざまなスタイルの導入が可能です。
- カメラ型:室内に設置したカメラで録画・見守りが出来るサービス
- センサー型:人感センサーや光熱の使用量等で異常の有無を判断する
- 通報型:主に入居者自身が通報するシステム
- コミュニケーション型:業者が電話や訪問で状況を確認するサービス
- 訪問型:配達時や巡回時に様子を見て、家族に連絡するサービス
- 自動通知型:電気ポットの使用状況や消費電力を確認することで生存確認をする
入居者やその家族のニーズに合った見守りサービスを取り入れましょう。
孤独死損害補償保険に加入する
見守りサービスを導入しても孤独死をなくすことはできません。万が一孤独死が発生してしまった場合に備えて、孤独死損害補償保険に加入をしておきましょう。
孤独死保険には家主型と入居者型の2種類があります。
家主型は、大家さんが保険の契約者です。入居者の死亡事故によって発生する家賃損失・遺品整理費用・原状回復費用が補償されます。
一方、入居者型は入居者が保険の契約者です。入居時に加入する家財保険の特約で加入できるため、手間がかかりません。
主に入居者の死亡による遺族や保証人への損害が補償されます。補償の内容は、遺品整理費用・原状回復費用などがあります。
保証人を立てて契約してもらう
契約を結ぶ際には保証人を立ててもらうようにしましょう。入居者が家賃滞納や住居設備の破壊の弁償金を払えない場合に保証人からとることができます。
最近では、家賃保証会社や法人の身元保証サービスが登場し、保証人が立てにくかった方でも立てることができるようになりました。
契約時には必ず保証人をたてるか保証サービスを利用するようにさせましょう。
設備を高齢者向けにする
高齢者が生活を送るうえで、リスクや問題がないかを確認しましょう。
住みにくい環境では、入居希望者が減少しやすいです。また、入居後大きなケガや火災が起きる可能性もゼロではありません。
サービスつき高齢者向け住居の設備内容は、居室・浴室・キッチン・洗面設備・トイレ・収納設備などがあります。
安全に生活するための対策を考えることが、リスクの軽減につながります。高齢者が住みやすい賃貸アパートを作りたい方は、9つの対策方法を実践してみましょう。
- お風呂や玄関、廊下など、姿勢を変える場所や必要箇所に手すりを設置する
- 玄関などの段差は出来るだけ小さくする
- 床は滑りにくい素材を使用し、床の段差はなくす
- 車いすのことも考えて、出入り口は広くする
- 使いやすいドアノブにする
- ガスコンロをIHに替える
- 灯油ストーブや電気ストーブの代わりにエアコンを設置する
- ガラスに飛散防止フィルムを貼る
- お風呂に暖房設備を導入する
高齢者になったつもりでこの部屋を使うとしたらと、高齢者の視点に立って、見直すことが大切です。
サービスつき高齢者向けアパートの4つの経営方法
個人で経営すると、建物の建築から入居者・ケアの専門家の募集をしなければいけません。施設規模が大きいサービスつき高齢者向け住宅になると、1人で経営するのはリスクが高いかもしれません。
個人で運営するのではなく、事業所に委託する選択肢も考えましょう。サービスつき高齢者向け住宅の経営方式は、以下の4種類があります。
- 一括借り上げ方式
- テナント方式
- 委託方式
- 自営方式
経営者としてのリスクを軽減するためにも、しっかりと学びましょう。
一括借り上げ方式
いくら知識を学んだとしても、初めての経営だと不安という方もいると思います。
そのような場合におすすめの経営方式が、一括借り上げ方式です。施設の運営はすべて事業者に任せられます。
一括借り上げ方式の魅力は、ノウハウのある事業者に経営を任せられるため、撤退や廃業のリスクが減らせるところです。大家さんは何もしなくても安定した賃料を受け取れます。
デメリットは、手間はかからない分、想定される賃料の20%程度は手数料として支払う必要があるので、収益が下がってしまうことです。
テナント方式
建物の運営は大家さんが行い、介護サービスは外部事業者に委託する方式です。大家さんは入居者の募集や契約を行いますが、手数料を支払えば、入居者募集や管理業務、クレーム対応など、事業者が対応してくれます。
一括借り上げ方式と比べると、賃料に関する手数料は安いです。また、入居者からの賃料だけではなく、委託する事業者からはテナント料を受け取れるケースもあります。
事業者の切り替えが他の方式よりも簡単なので、より質の良い事業者に切り替えることで入居者の満足度の向上を狙えます。
委託方式
大家さんは建物の運営を行い、介護サービスは外部の事業者に委託する方式です。
形式上は、テナント方式と同じですが、異なるのはお金の動きです。委託方式では、入居者の賃料や介護サービス料を得られます。委託した介護事業者には、手数料を支払います。
入居者が減れば賃料とサービス料の受け取り額が減りますが、入居率に比例して収益が大きくなり、テナント方式よりも収益を上げやすいです。一方、収益の安定性には欠けます。
自営方式
サービスつき高齢者向け住宅の、経営に関する全ての業務を自分で行う経営方法です。実態としては起業といえます。
施設利用料や介護報酬などがそのまま収益となるため、収益が最も多くなりますが、自身でノウハウを築いていかなければなりません。
近年、介護・福祉施設が増加し、競争が激しくなっている為、経営破綻するリスクも高く、注意が必要です。
自分で経営方針を決定できるので、自分の思い通りに経営ができるのは良い点だと言えるでしょう。
まとめ
今回は賃貸アパートの選択肢としての高齢者向けアパートを紹介しました。人口が減少している中、高齢者の割合は増えているので、高齢者向けの賃貸物件も考えていくと良いでしょう。
安心や介護を求める高齢者が、今後増えることも予測できるので、それに伴ってサービスつき高齢者向け住宅の需要も増えていきます。
それぞれをよく理解したうえで、慎重な判断が必要です。