アパート経営

不動産経営の5棟10室基準とは?メリットやデメリット、判定方法など徹底解説

2023年7月26日

不動産投資を行っている方の中には「5棟10室基準」という言葉を聞いたことがある方もいるかもしません。しかし、具体的にどのようなものか理解している方は少ないのではないでしょうか。そこでこの記事では、「5棟10室」について詳しく解説します。

メリット・デメリットや注意点などについてもまとめました。この「5棟10室」の基準は、不動産投資の収益性の向上やリスク分散の観点から、多くの投資家に愛用されているので、アパート経営者は知っておいた方が良いでしょう。

目次

不動産経営の基準となる「5棟10室」とは?

5棟10室という基準は、不動産投資家にとって1つの大切な基準で、物件数が5棟10室以上になると不動産経営が安泰だと言われています。

しかし、その一方で、これはあくまでも目安に過ぎないため、不動産投資に興味を持っている方は、物件の種類や周辺環境、募集の需要・供給などを総合的に判断し、自分自身の目的に応じた基準を設定する必要もあります。

5棟10室について、より詳しく解説します。

5棟10室基準とは?

不動産投資にある5棟10室基準とは、アパート経営を事業的な規模として認めるための目安とされています。 具体的には、1つの物件が5棟もしくは10室以上の場合、5棟10室に当たります。また、駐車場は5区画で一室分と計算されます。

不動産投資で5棟10室基準は、あくまで目安とされていますが、一般的にはこの基準を満たしている物件が事業的な規模といえます。そのため、所得税法の基本通達にて、以下のようにまとめられています。

建物の貸付けが不動産所得を生ずべき事業として行われているかどうかは、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で建物の貸付けを行っているかどうかにより判定すべきであるが、次に掲げる事実のいずれか一に該当する場合又は賃貸料の収入の状況、貸付資産の管理の状況等からみてこれらの場合に準ずる事情があると認められる場合には、特に反証がない限り、事業として行われているものとする。

(1) 貸間、アパート等については、貸与することができる独立した室数がおおむね10以上であること。
(2) 独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。

引用元:国税庁 法第26条《不動産所得》関係

つまり、税法上で事業として認められるには「5棟10室をクリアしなければいけない」ということになります。

5棟10室の算出方法

5棟10室基準をクリアするためには、以下のいずれかの条件を満たす必要があります。

  1. 物件数が5棟以上ある場合
  2. 同じ物件内に10室以上ある場合

たとえば、1つの物件が4棟20部屋の場合、5棟5室(すべて戸建て、テラスハウスなど)が挙げられます。ただし、この基準はあくまでも目安であり、物件数や部屋数が多いからといって、必ずしも優れた不動産投資とは限りません。

自己資金の有無や市場動向や物件の立地など、多くの要因を考慮した上で、投資先を選択することが大切です。

5棟10室以上で不動産経営の規模が決まる

不動産経営が「事業的規模」になるのは、物件数が5棟10室以上になってからで、5棟10室未満の場合は「業務的規模」です。物件数が事業的規模になると、主に税制上の変化があり、青色申告特別控除や不動産収入と他の所得の損益通算ができるようになります。

不動産投資が事業的規模と見なされるかどうかは、基本的に確定申告を通じて自己申告することで判断されます。ただし、青色申告をする際の目安に5棟10室が用いられていることはありますが、業務として「事業的規模」と見なされるかどうかは、経営の実態が判断材料となるので注意が必要です。

不動産経営の規模を5棟10室まで拡大する方法

不動産経営の規模を拡大するためには、物件数を増やす必要があります。ただし、物件数を増やしていくには融資してもらわないといけない場合もあります。特に不動産オーナーの中でも、経験を積んでいない人の中には、融資審査において1件目の物件の営業状況を調査されます。

追加で融資を受けるには、1つ目の物件の空室を減らし、ローン返済スケジュールを守り、想定以上の資産運用成果を示すことが必要です。また、不動産投資は金利リスクなどの問題点から、フルローンでの投資は推奨されていません。

10%以上の自己資金を対外的に役立てることや、2件目以降においても頭金が必要になることを覚えておきましょう。一般的に、日々の職業による収入が稼げるようになってから、不動産事業の規模を拡大する形になります。

5棟10室以上の不動産を経営するメリット

アパートやマンションといった不動産を経営していくうえで、5棟10室以上の物件を保有することには、いくつかメリットがあります。

  • 青色申告なので所得税の控除が使える
  • 経費や損失などに計上できる範囲が広がる

それぞれのメリットについて詳しくみていきましょう。

1. 青色申告なので所得税の控除が使える

不動産経営が5棟10室以上の場合は「事業的規模」となり、青色申告をすることができます。青色申告は、所得税の控除が使えるため、65万円の特別控除を受けられます。また、減税措置として均等割物件譲渡所得に対する特例措置などがあり、経営する不動産数が増えるほど、メリットが大きくなるでしょう。

2. 経費や損失などに計上できる範囲が広がる

物件数が多ければ多いほど、経費や損失額を経費として計上することができます。たとえば、通常の不動産投資(業務的規模)の場合、家賃滞納額は確定申告において損失として計上できません。しかし、事業的規模であれば、回収不能となった滞納額を損失として申告できます。

また、空室や滞納などで収益が減った場合にも、損失を計上して課税される所得を減らすことができます。

5棟10室以上の不動産経営のデメリット

不動産経営にあたり、物件数が重要な基準となる「5棟10室」以上の不動産を経営することにはメリットがありますが、同時にいくつかのデメリットもあります。

  • 税金が今まで以上に高くなる
  • 帳簿付けが必須になる
  • 副業規定に抵触する可能性も
  • 配偶者控除や扶養控除が使えなくなる

それぞれのデメリットについてみていきましょう。

1. 税金が今まで以上に高くなる

不動産経営を行うためには、固定資産税や都市計画税、所得税等の税金がかかります。5棟10室以上の不動産を保有する場合は、これらの税金が多くなるため、それに伴って負担額も大きくなります。

また、不動産所得については、所得税を「青色申告」する必要があるため、税金の申告や納税などの手続きが複雑になります。

2. 帳簿付けが必須になる

5棟10室以上の不動産を経営する場合は、帳簿付けが必須です。これは所得税や消費税等の税金を正確に申告するためで、不動産経営における必要経費や収入などを厳密に管理する必要があります。

そのため、会計ソフトの使い方や帳簿の作成方法について、しっかりと学び実践する必要があるでしょう。

3. 副業規定に抵触する可能性も

不動産経営が5棟10室以上の場合に抑えておかなければならない点は、副業規定に抵触する可能性があることです。たとえば、公務員の場合、公務員法により副業が制限されているため、公務員法に違反することになります。そのため、副業を行う場合は、事前に勤務先に相談する必要があります。

また、物件数が増えることで管理費用・運営費用・宿泊税・固定資産税などがかさみ、キャッシュフロー面で問題が出る可能性があります。そのため、適切な管理・運営能力が必要です。

4. 配偶者控除や扶養控除が使えなくなる

配偶者や親族を扶養家族として認定している場合、配偶者控除や扶養控除を受けることができます。

しかし、不動産経営によって一定の収益を得た場合、所得税がかかり所得が一定額以上になると、配偶者控除や扶養控除を受けることができなくなってしまいます。

この場合はどっち?5棟10室以上の不動産経営の判定方法

不動産経営において、物件数が重要な基準となる「5棟10室以上の不動産経営」ですが、その判定方法はどのように行われるのでしょうか。

一般的に、「5棟10室以上の不動産経営」というのは、建物の区分(アパート、マンションなど)や部屋数だけでなく、駐車場5区画でも一室分と計算されます。

下記のケースについての5棟10室以上の不動産経営の判定方法をみていきましょう。

駐車場や土地を賃貸している場合

駐車場や貸土地のオーナーも存在するかもしれません。しかし、それらは通常室数と同じように扱われないため、単純に物件数で事業規模を判定することができません。

月極駐車場の場合は、5台を1室として計算されます。たとえば、駐車スペースが50台以上確保されていた場合、事業的規模の対象ということです。

また、駐車場以外の貸地の場合は、1件あたり1室に相当します。土地が10個以上ある場合、事業規模にあたります。

アパート8室とマンション2部屋を賃貸している場合

アパート8室とマンション2部屋を賃貸している場合は、建物の種類や数だけでなく、部屋の数に注目する必要があります。たとえば、1つのアパートに8室と1つのマンションに2部屋がある場合、物件は2つとなりますが、部屋は合計で10部屋になります。

そのため、「5棟10室以上の不動産経営」になり、事業的規模に該当するのです。

不動産経営の5棟10室に関する注意点

不動産経営において、物件数が重要な基準となる「5棟10室以上の不動産経営」ですが、いくつか注意点があります。

  • 5棟10室は所得税にかかわる基準になる
  • 不動産経営の規模は事業実態で総合判断される

それぞれの注意点について詳しくみていきましょう。

1. 5棟10室は所得税にかかわる基準になる

アパート経営の場合、複数の建物がある場合や一棟に多数の部屋がある場合、それらを通算して所得税が課税されます。所得税は、所得が多くなるほど税率が高くなる累進課税というシステムであるため、税負担が増加するのです。

また、事業的規模とみなされると個人事業税が課税される場合があります。この基準は、法律で定められているため、確定申告をする際には税務署の担当者に確認することが求められます。自治体によって基準や税率が異なるため、個人事業税については各自治体のホームページを確認するようにしましょう。

2. 不動産経営の規模は事業実態で総合判断される

不動産経営の判断は、総合的な事業実態で判断されます。物件の台帳簿、保険証券、契約書、賃貸借契約書の証拠が必要となるため、これらの書類はしっかり管理するようにしましょう。

また、5棟10室以上の不動産経営を行う場合、マンション経営として扱われることがあります。マンション経営においては、建築法や消防法などの法令を遵守する必要があるので注意しましょう。

不動産経営の5棟10室基準に関するよくある質問

ここからは、不動産経営の5棟10室基準に関するよくある質問について紹介します。

それぞれの質問について詳しく回答するので5棟10室基準に関して悩んでいる方は、ぜひ参考にしてみてください。

5棟10室の基準はいつの時点で決まる?

1年間のうち、事業的規模を満たしている期間があれば、事業的規模で判定して構わないとされています。なぜなら、アパート経営において、1年間のうちに部屋数が変動することがあるからです。

たとえば、1年間の途中で建物を売却して部屋数が減少したり、新築物件を購入して部屋数が増加したりすることが考えられます。そのような場合には、年間を通じて事業的規模を満たしていれば所得税において問題ないとされています。

しかし、物件数の増減がある場合には、その年のうちであっても事業的規模を満たす期間によって所得税を申告することになります。たとえば、売却した場合には、事業的規模を満たす期間はなくなるため、事業的規模にはなりません。

10室のアパートを夫婦で賃貸している場合はどうなりますか?

この場合、夫婦がそれぞれ単独で所有しているわけではなく、共有しているということになります。そのため、「5棟10室の基準を満たしている」ことになります。

基本的に、夫婦の共有財産は持ち分割合で事業的規模かどうか判断する必要がないとされています。しかし、事業実態や過去の判例を総合的に勘案する必要もあります。このような状況で迷ったときは、税理士などの専門家に相談すると良いでしょう。

まとめ

この記事では、不動産経営の規模の基準になる5棟10室について詳しく解説しました。これは、必ずしも法律で定められたものではありません。しかし、5棟10室以上の基準に達すると、所得税等の計算が変わるので注意が必要です。

あくまでも5棟10室は基準ですが、不動産経営をしていくうえでの目安になるので、覚えておくようにしましょう。この記事で紹介したような注意点に留意して、不動産経営をより効率的かつ安全に行っていきましょう。