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不動産所得の事業的規模の判断方法は?判例もあわせて紹介

2024年8月1日

不動産所得の事業的規模の判断は、税務上重要なポイントです。個人が不動産を所持して収益を上げる場合、事業的規模に該当するかどうかによって、税務処理や認められる経費、控除額などに大きな影響があります。

この記事では、不動産所得が事業的規模に該当するかどうかを判断するための基準について詳しく解説します。また、実際の判例をいくつか紹介しながら、その具体例を紹介します。不動産所得の事業的規模の判断方法が知りたいという方は、ぜひこの記事を参考にしてみてください。

目次

不動産所得の事業的規模とは?

事業的規模とは、経済対策にかかる金額の大きさを示す概念の1つです。事業規模は政府系金融機関による融資拡大などを含み、返済が見込まれる金額も含めた経済対策全体の規模を示します。

不動産投資をして不動産賃貸業を行っている場合、事業的規模とそれ以外(以下、「業務的規模」とします)の違いにより税務上の扱いが大きく異なります。

しかし、事業的規模と認められるためには、特定の基準を満たしていなければなりません。

不動産所得の事業的規模に該当する事例

ここからは、実際に不動産所得の事業的規模に該当する以下の事例について見ていきましょう。

  • 基本的な場合
  • 貸室と戸建貸家を所有している場合
  • 貸地の場合
  • 共有名義の場合
  • 空室がある場合

それぞれ詳しく解説していきます。

参考:No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分|国税庁

基本的な場合

不動産を貸して収入を得る場合、規模が大きいと税務上の扱いが変わり、メリットを受けることができます。この「大きい規模」というのがつまり「事業的規模」です。

事業的規模には基準があり、アパートやマンションなら10室以上、貸家なら5棟以上とされています。駐車場については明確な基準はありませんが、だいたい駐車場5台分がアパート1室に相当するとされるため、50台以上が目安となります。

そのため、マンションの一室を購入して賃貸を始めるような場合は、規模が大きいとはいえないのです。

貸室と戸建貸家を所有している場合

不動産投資においては、戸建ての貸家や区分マンションへの投資もよくみられます。利益が期待できる物件であれば、特定のタイプにこだわる必要はありません。資金の都合がつけば、10室以上の一棟マンションに投資することも考えられます。

また、アパートやマンションの貸室に加え、戸建ての貸家も所有するケースも考えられるでしょう。このような場合、貸室2室を戸建ての貸家1棟と見なして計算します。

例として、戸建ての貸家を3棟と区分マンションを5室所有している場合、事業的規模とみなされます。

貸地の場合

貸地と聞くと駐車場を思い浮かべる方も多いでしょう。しかし、ロードサイドの土地などを所有している場合、大型スーパーや量販店に土地を貸すケースもよくあります。

先述のとおり、駐車場のみの賃貸経営では50台以上を貸し出していれば事業的規模とみなされます。一方、スーパーや量販店に土地を貸している場合は、具体的な基準がありません。

そのため、「社会通念上事業と称するに至る程度の規模で不動産の貸付けを行っているかどうか」に基づいて判断されます。たとえば、貸付件数が1件であっても年間の賃貸料が1,000万円を超えるような場合は、事業的規模と見なされる可能性があります。

このように、個々のケースによって対応が異なる可能性があるため、事業的規模といえるか曖昧な場合は国税局に問い合わせをして確認しましょう。国税局電話相談センターに連絡を取ると対応してもらえます。

共有名義の場合

アパートなどを共有名義で所有している場合、持ち分ではなく、物件全体の規模で判断されます。

10室のアパートを一括で不動産会社に貸している場合は1室としては扱われませんが、一括借り上げの場合でも10室あれば、事業的規模と認められることが多いです。さらに、アパート4室、貸家2軒、駐車場10台分といった複数の形態が混在していても事業的規模とみなされます。

ただし、アパートの部屋数が10室以下や貸家の軒数が5軒以下であっても、賃料収入が大きければ税務署が事業的規模と認める場合もあります。気になる場合は国税局や税務署に相談してみると良いでしょう。

空室がある場合

不動産賃貸業では、入居者が引っ越した場合に部屋が空き、駐車場が解約された場合には空き地になります。

しかし、広告宣伝を行っているなど、積極的に入居者を募集している状況であれば、空いている部屋でも1室としてカウント可能です。また、空き地の駐車場でも1台分としてカウントできます。

不動産所得が事業的規模に該当するメリット

ここからは、不動産所得が事業的規模に該当するメリットを4つ解説します。

  • 青色申告特別控除の利用が可能
  • 青色事業専従者給与の利用が可能
  • 回収不能である賃料を経費計上可能
  • 取り壊しなどの損失を経費計上可能

それぞれ詳しく見ていきましょう。

青色申告特別控除の利用が可能

不動産所得が事業的規模に該当すると、「青色申告特別控除」を利用することができます。この控除は、所得税の申告方法として選択できる青色申告による特典の1つです。

青色申告特別控除には10万円控除と65万円控除がありますが、事業的規模の場合は65万円控除が適用される場合があります。これにより、所得税の負担を大幅に軽減することができます。

青色事業専従者給与の利用が可能

不動産所得が事業的規模に該当すると、家族がその事業に従事している場合、「青色事業専従者給与」を経費として計上することができます。青色事業専従者給与とは、家族が不動産経営に専念している場合に支払われる給与のことです。この給与を経費として計上することで所得を減少させ、結果的に所得税の負担を軽減することができます。

この制度を利用するためには、家族が一定の条件を満たす必要があります。15歳以上で専従者として年間6ヶ月以上事業に従事していることなどが求められます。適切な運用を行うことで、大きな節税効果を得ることが可能です。

回収不能である賃料を経費計上可能

不動産経営を行っていると、賃貸料の回収が困難になるケースも少なくありません。賃借人の事情や経済状況により、賃料が滞納された場合、その分が収入として計上されてしまうと大きな負担となります。

しかし、不動産所得が事業的規模に該当する場合、回収不能な賃料を必要経費として経費として計上可能です。

取り壊しなどの損失を経費計上可能

建物を取り壊す際には、かなりの損失が生じることになります。しかし、事業的規模として認められている場合、その費用を経費として計上することができます。

さらに、もしその年度内に所得から差し引き計上できない場合でも、3年間にわたって繰り越すことが可能です。

不動産所得が事業的規模に該当するデメリット

不動産所得が事業的規模に該当することには多くのメリットがある一方、いくつかのデメリットもあります。ここでは、以下のデメリットについて詳しく解説します。

  • 個人事業税が生じる
  • 複式簿記で記帳する必要がある

個人事業税が生じる

不動産所得が事業的規模と認められると、個人事業税が発生することがあります。個人事業税は、事業所得に対して課される地方税の一種で、具体的には収入額に対して一定の税率が適用される形で計算されます。

個人事業税は、都道府県ごとに一定の税率が設定されており、不動産所得の場合、その税率は5%前後となるケースが多いです。税率だけ見ればそれほど高くはないかもしれません。ただし、事業的規模の不動産所得がある場合、それに伴う収入が大きいため税額も相応に大きくなります。

複式簿記で記帳する必要がある

複式簿記とは、取引を借方と貸方の二方面から記録する方法です。これにより、全体の資産・負債状況を正確に把握することができ、財務状態の透明性や信頼性が高まります。

複式簿記を使用することで、税務調査時の対応がしやすくなる一方、日常の記帳作業はかなりの負担となります。特に複数の不動産物件を管理している場合、毎月の収入・経費を正確に記録し、貸借対照表と損益計算書を適切に作成しなければなりません。

これには専門的な簿記知識が求められるため、経理のプロを雇うか、自分で簿記の知識を得る必要があります。

不動産所得の課税上の相違点まとめ

不動産の貸付けに関する課税上の相違点は、事業的規模で行う場合と事業的規模以外で行う場合で以下のように異なります。

事象 事業的規模 事業的規模以外
固定資産の取壊しや除却などの資産損失 全額を必要経費に算入できる その年分の資産損失を差し引く前の不動産所得の金額を限度として必要経費に算入し、マイナス所得にはならない
回収不能による貸倒損失 回収不能となった年分の必要経費に算入できる 収入に計上した年分にまでさかのぼって、その回収不能に対応する所得がなかったものとして所得を再計算する
青色事業専従者給与又は白色の事業専従者控除 適用あり 適用なし
青色申告特別控除 青色申告を行う場合は55万円(電子帳簿保存またはe-tax申告の場合は65万円)控除される 青色申告を行う場合は10万円控除される

これらの違いにより、事業的規模での不動産貸付けは税務上の優遇措置が多く、より手厚い経費控除や特別控除が適用されることがわかります。ただし、そのためには一定の規模と継続的な収益活動が求められます。

不動産所得が事業的規模に該当する判例

以下の判例は、不動産所得が事業的規模に該当するかどうかの判断基準を示しています。

“ロ 所得税基本通達26-9《建物の貸付けが事業として行われているかどうかの判定》は、(中略)事業として行われているものとするという十分条件を定めたにすぎず、当該基準を満たしていなかったとしても、これをもって直ちに社会通念上事業に当たらないということはできないと解するのが相当である。

ハ 結局のところ、不動産貸付けが不動産所得を生ずべき事業に該当するか否かは、

1営利性・有償性の有無、2継続性・反復性の有無、3自己の危険と計算における事業遂行性の有無、4取引に費やした精神的・肉体的労力の程度、5人的・物的設備の有無、6取引の目的、7事業を営む者の職歴・社会的地位・生活状況などの諸点を総合して、社会通念上事業といい得るか否かによって判断するのが相当と解される。”

引用:(平19.12.4、裁決事例集No.74 37頁) | 公表裁決事例等の紹介 | 国税不服審判所

所得税基本通達26-9では、建物の貸付けが事業として行われているかどうかの判定基準が示されていますが、これを満たさない場合でも事業と認められないわけではないとしています。

つまり、最終的に事業的規模かどうかを判断する際は、事業性があるかどうかが重要なのです。所有している物件の数よりも、事業性が重視される傾向があります。

不動産所得の事業的規模と判定される時期

事業的規模の判定時期については、具体的な基準は設けられていません。1年間のうち、事業的規模を達成している期間があれば、不動産所得は事業的規模と認められる可能性があります。

たとえば、5棟10室以上の物件を所有していた場合、秋に2室を売却して確定申告時にその所有数の条件を満たしていないとしても、事業的規模と判断される可能性があります。

一方、1年の途中で賃貸物件を取得し、5棟10室以上となった場合でも、その期間は事業的規模とみなされるので、確定申告時に青色申告を行うことが可能です。

このように、事業的規模であるか否かの判断は個々の事例によって変わる可能性があるため、国税局や税務署に相談したうえで判断するようにしましょう。

まとめ

不動産所得の事業的規模の判断には多くの要素が関わり、総合的な視点で評価されます。一般的には「5棟10室基準」が適用され、不動産が5棟以上または10室以上であれば事業的規模と見なされる可能性が高いです。

ただし、この基準を満たしていない場合でも、さまざまな要素を総合的に考慮し、事業的規模と判断されることがあります。あてはまるかどうか不明瞭な場合、判例や具体例も踏まえ、税務署に相談してみましょう。